育児・介護休業法とは?改正のポイントと「2025年問題」について解説!
少子高齢化がますます進む現代の日本。日本総研の調査によると、2023年の出生率は最大の減少率と推定されました (日本総研 2024年2月14日リリースより)。一方で、日本の総人口のうち65歳以上の高齢者が占める割合は右肩上がりを続けており、2070年には5人に2人が高齢者となることが予想されています(厚生労働省 調査より)。
そんな状況のなか、仕事を続けながらより育児や介護に専念してもらおうと「育児・介護休業法」の見直しが進んでいます。現在の働き方に合った仕組みにしようと、制度設計も変わりつつあるのです。育児・介護休業法の改正のポイントや、今後課題となることが予想される「2025年問題」についても紹介していきます。
更新日:2024年8月1日
そもそも育児・介護休業法とは何なのか?
育児・介護休業法とは、育児や介護に取り組む人たちについて仕事と家庭を両立するべく、企業が配慮するべきことを義務付けた法律です。1992年4月1日に施行され、その後何度かの法改正を経てきました。少子高齢化が進み人手不足が課題となるなかで、企業側としては育児や介護を理由とした離職は痛手となります。社員のライフステージに応じた働き方を実現するために、育児・介護休業法は制定されました。
法律は以下の4つの制度からなります。
- 育児休業
- 子の看護休暇
- 介護休業
- 介護休暇
育児休業
今や多くの方にとって取得が一般的となっている育児休業は、子どもの育児のために取得できる休業制度となっています。取得できる期間は原則、子どもが1歳になるまでです。ただし、子どもが保育所に入所できないなどのやむを得ない事情がある場合は最長2歳になるまで取得できます。取得回数は1歳6カ月までは2回、1歳6カ月から2歳までは1回までです。
子の看護休暇
子の看護休暇とは、未就学児を子育て中の社員が1年に5日休暇を取得できる制度です。取得の対象は子どもの看護や予防接種、健康診断となります。未就学児の子どもが2人以上いる場合は1年に10日休暇を取得でき、日単位だけでなく、時間単位で取得することもできます。
介護休業
名の通り、介護のために取得できる休暇を指しています。介護する家族1人につき通算で93日、最大3回に分けて取得できます。家族といっても配偶者や自分の両親だけでなく、事実婚のパートナーや子ども、祖父母、兄弟姉妹、配偶者の両親や子ども、孫の介護のために休暇を取得することも可能です。
介護休暇
要介護の家族の介護のために年間最大5日の休暇を取得できるのが、介護休暇です。子の看護休暇と同様、対象の家族が2人以上の場合は最大10日、また時間単位での取得も可能です。
以上の4つの制度以外にも、時間外労働の制限や深夜業の制限、短時間勤務制度など、育児や介護に当たる社員が自分の環境に合った働き方を実現するべく、制度設計がなされています。
2022年の法改正の狙いは男性の育休取得の推進
2022年に改正育児・介護休業法が施行されました。改正の狙いは、男性の育休取得を促進すること。厚労省によると、2020年の育休取得率は女性が83.0%だったのに対し、男性は7.48%と大きな差がありました。この差をなくしていこうと、制度設計も変更されたのです。
法改正によって、男性も育休を取得しやすくなりました。改正以前も「パパ休暇」という制度はありましたが、この制度では子どもの出生後8週間以内で1回の育休取得しか認められていなかったのです。しかし、改正により子どもの出生から8週間以内で2回、計最大4週間取得できるようになりました。仕事と家庭の状況に合わせて、より育休が取得できやすくなったといえるでしょう。
改正前
出生後8週間以内で1回のみ
改正後
出生から8週間以内で2回、計最大4週間
また、これまでは派遣労働者などの有期雇用者には育休の取得は認められていませんでしたが、正社員と同じように育休を取得できるようになりました。
法改正で企業のあるべき姿とは
法の改正前は社員に対して育休について通知し、取得の意思を確認することは努力義務とされていました。しかし、改正によって通知と意思確認は義務付けられるようになったのです。これは女性社員のみならず、男性社員にも確認することが義務付けられています。この制度設計の変更は、男性社員が育休を取得しやすい雰囲気作りを作るよう企業側が努力しなければならないことを示しているといえるでしょう。
法改正と各企業の取り組みの結果、2023年に厚労省が発表した統計によると、男性の育休取得率は46.2%と2020年よりも大幅に伸びました。今後、男性の育休取得は当たり前のものとなっていくことが予想されます。
2020年
7.48%
2023年
46.2%
改正案のポイント
現在、新たな育児・介護休業法の改正案が議論中で、改正案は2025年4月から施行されると予想されています。
ポイントになるのは以下3点です。
- 柔軟な働き方の促進
- 育児取得状況の公表範囲の拡大
- 介護離職防止
柔軟な働き方の促進
改正案には、3歳から〜小学校入学前の子どもがいる社員に対し、企業側が以下のうち2つを実施できることを通達&意思確認することになっています。
- 始業時刻等の変更
- テレワーク
- 時短勤務
- 新たな休暇の付与
- その他働きながら子供を養育しやすくするための措置
また、現在の育児・介護休業法では子どもが3歳になるまでの所定外労働制限、いわゆる残業免除が定められていますが、年齢の範囲が小学校就学前まで拡大されます。そのほか、看護休暇について子どもの行事に参加する際にも取得できるようになるなど、より子育て世代が働きやすくなるような制度設計がなされているのです。
育休取得状況の公表範囲の拡大
現在の育児・介護休業法では、男性の育休取得率の公表は常時雇用従業員1,000人以上とされています。しかし、改正案では常時雇用従業員300人以上の企業が公表しなければならないと盛り込まれています。
また、現行の法律では育休取得率などの数値目標の設定は企業の裁量に任されていますが、改正案では常時雇用従業員数101人以上の企業に対し、育休取得率や労働時間について目標を設定し、労働局に届け出ることが義務付けられる予定です。
介護離職防止
介護による離職が発生しないよう、改正案では仕事と介護の両立が実現できるような制度設計がなされています。
まずは、介護に当たらなければならなくなった社員に対し、会社側が両立支援制度について社員に個別で周知、意向を確認することを義務付けています。両立支援制度とは、これまで解説してきた介護休職や介護休暇制度、時間外労働の制限などの施策を指します。そして改正案では、両立制度について介護に直面するであろう年齢よりもなるべく早めに社員側に説明するのが望ましいとしているのです。また、介護に当たる社員以外にも周知し、両立制度が利用できやすいよう研修などを実施するよう求めています。
また、今の法律では介護休暇について勤続6カ月未満の社員に付いては取得が認められていませんでした。しかし、改正案ではこの縛りが撤廃される予定です。そのほか、介護に当たる社員についてテレワークで仕事を行えるよう配慮することを努力義務とする方針です。
介護に関する制度が充実してきている背景に「2025年問題」が挙げられます。
「2025年問題」とは?
「2025年問題」とは、団塊の世代が後期高齢者に区分される75歳を迎えることで、介護に従事する人々が増えることを指しています。仕事と介護を両立している人のことを「ビジネスケアラー」と呼び、これからビジネスケアラーが増えていくことが予想されます。
経済産業省によると、ビジネスケアラーの離職や生産性低下によって、経済的損失が約9兆円にのぼっているということです。例え介護による離職を防げたとしても、生産性が大きく下がってしまうようでは企業側にとっても社員側にとっても大きな損失となってしまいます。今後は介護離職を防ぐだけでなく、介護をしながらもなるべく生産性を保ちながら働いてもらうということが重要になってくるのです。
改善のための施策としては以下がポイントとなります。
- 制度の充実と制度の周知徹底
- 経営層の理解と職場の環境作り
- 社員同士の対話の場
制度の充実と制度の周知徹底
まずは、介護に当たりながらも仕事を続けられるよう制度を充実させる必要があるでしょう。制度というのは介護休業、介護休暇などの制度だけでなく、「これまでとなるべく変わりなく働けるようにする」という方向性の制度も含んでいます。休暇制度のみを整えれば、離職の防止にはつながるかもしれません。しかし、働き続けるという視点で見た場合はテレワーク環境の充実や時短勤務制度など、働く場所や時間に関する制度も充実させていく必要があるはずです。そして、その制度について、社員に対して知らせていくことも大切なことです。
経営層の理解と職場の環境作り
次に、経営層の理解と周囲の環境作りも欠かせません。2025年問題は現実のものとして迫っており、もはや社員個人の問題ではありません。ビジネスケアラーの生産性を落とさないことを経営の目標と置き、会社全体で取り組んでいく必要があるのです。今は介護をしていなかったとしても、社員のほとんどは将来的に介護を経験することになります。上司は1on1を実施するなどして部下とライフステージの考え方について共有し、会社がそのライフステージに寄り添っていくという姿勢を示していく必要があるでしょう。
社員同士の対話の場
最後に、社員同士で介護の経験を対話し合う場を設けることも重要になってきます。介護中は孤独になりがちです。介護に当たっている社員同士で対話する場を設けることで、情報共有の場になるとともに悩みを打ち明ける機会にもなるでしょう。まだ介護に当たっていない社員に対し経験を伝えることも大切です。介護に当たりながら仕事を続けている社員がそうでない社員に体験談を伝えることで、将来的なモデルケースとして学ぶことができるでしょう。
安心して育児と介護に取り組むために
どれだけ法律が整備されたとしても企業側の努力がなければ安心して育児と介護に取り組むことはできません。少子化と高齢化が止まらない現代の日本において、企業はより一層社員に寄り添っていくことが求められるでしょう。